マーケティング 7分で読めます

「在庫あり」を宣伝の中心から外した。売り切れた商品を告知して月商が平均約1.2倍になったバイクパーツショップの話

新商品が入った。在庫があります。今ならこのキャンペーンです。お店のSNSに流れてくる投稿は、ほとんどがこの形をしています。

売りたいものを、買える状態で見せる。宣伝としてはごく真っ当なやり方です。

あるバイクパーツショップは、その真っ当な宣伝を続けても売上が伸びませんでした。そこで告知の中心を、もう買えない商品に切り替えています。

売り切れを告知したら、平均月商が約1.2倍になった

告知の中心を売り切れた商品に変えて、平均月商が118%、約1.2倍になった

このショップは、SNSで商品の入荷やキャンペーンを告知していました。従来の中心は「オススメ商品」と「在庫あり商品」です。それでも、思うように売上は伸びていませんでした。

そこで告知内容を「売り切れた商品」中心に変えました。すると平均月商が118%、約1.2倍に上がっています。

在庫のない商品を告知したことで、逆に希少性が高まり、問い合わせと予約注文が殺到しました。単価アップと売上増を同時に実現したと報告されています。

「いつでも買える」は、「今は買わなくていい」と同じ意味になる

在庫ありを宣伝する投稿と、売り切れを告知する投稿

在庫の告知は、先延ばしの許可になっていた

店舗もECサイトも、普通は「今買えるもの」「在庫があるもの」を宣伝します。ところが消費者は、いつでも買えると思うと購買を先延ばしにします。

「在庫あります」という投稿は、見た人にとっては「急がなくても大丈夫」という情報でもあります。欲しいと思っても、今日決める理由がありません。そのまま忘れられていきます。

「売り切れました」の一文で、3つの心理が同時に動く

一方、こういう告知はどうでしょうか。

〇〇の最新ヘルメット、全カラー売り切れました。次回入荷未定

見た人の頭の中では、「こんなに人気なんだ」「みんなが買っている良い商品なんだ」「早く手に入れないと次もすぐ売り切れるかも」という心理が働きます。売れ残った商品よりも、売り切れた商品のほうが魅力的に見えるということです。

土台にあるのは「人は手に入らないものほど欲しくなる」という心理で、行動経済学では「希少性の原理」として知られています。いつでも買えるものより、売り切れや限定品のほうに価値を感じる傾向です。

着想源は、11時に完売するシャープペンだった

この戦略には元になった現象があります。三菱のシャープペン「クルトガ」です。

5,000〜6,000円という高価格帯にもかかわらず、製造量が少なく常に品薄でした。各店舗が「本日入荷分11時に完売。次回入荷未定」と告知することで、さらに欲しい気持ちが高まり、ヤフオクで定価の3〜4倍の2万円でも売れるという現象が起きました。

バイクパーツショップは、この原理を自店のSNSに持ち込みました。「売り切れ」を意図的に宣伝して希少性を演出し、問い合わせを増やし、予約販売と単価向上につなげています。

やったのは、告知の順番を組み替えること

具体的には、次の5つを実行しています。

まず、従来の「入荷しました」「在庫あります」に加えて、「〇〇が完売しました」という投稿を意図的に増やしました。入荷告知をやめたわけではありません。

次に、「入荷後すぐに完売」のように人気を裏付ける表現を添えます。売り切れたという事実は、その商品が人気であることの証明になります。

3つ目が、次の行動の案内です。「次回入荷予定は未定です。ご希望の方は店舗までお問い合わせください」と書きます。ここで顧客との接点が生まれ、予約注文や入荷時の優先案内につながります。

4つ目は、入荷したら告知し、売り切れたらまた告知するサイクルを繰り返すことです。続けるうちに「この店の商品はすぐ売り切れる」「早く買わないと手に入らない」という認識が定着します。

最後に、希少性が高まった商品は値引きせずに売ります。「入手困難な貴重品」として定価または高単価で販売できるため、利益率も上がります。

バイクパーツショップの棚と、ヘルメットに触れる手元

その結果…

問い合わせと予約注文が集まり、平均月商は118%、約1.2倍になりました。値引きで数を売ったのではなく、単価を上げながらの増加です。

【独自考察】売り切れの投稿は、宣伝ではなく実績の報告として読まれる

「おすすめです」は店の意見、「売り切れました」は起きた事実

この事例で私が重要だと考えたのは、同じSNS投稿でも、読み手にとっての情報の種類が違うという点です。

「オススメ商品です」は、売りたい側の意見です。読み手はそれを割り引いて受け取ります。どの店も自分の商品を勧めるからです。

「売り切れました」は、他のお客さんが実際に買ったという事実の報告です。店が褒めているのではなく、買った人の数が商品を評価しています。勧めるより、選ばれた結果を見せるほうが信じてもらいやすい。

売れ残った商品よりも、売り切れた商品のほうが魅力的に見える

買えない告知が、次に買う人の名簿を作っている

もう1つ見落とせないのは、ステップ3の「お問い合わせください」です。

在庫ありの投稿なら、欲しい人はそのまま買うか、買わずに去るかのどちらかです。売り切れの投稿では、欲しい人が手を挙げるしかありません。その手を挙げた人が、次の入荷時にまず声をかける相手になります。

つまりこの店は、売り切れの告知を通して、入荷前から買い手が決まっている状態を作っています。入荷してすぐ売り切れるのは、ある意味で当然です。そしてその「すぐ売り切れた」がまた次の告知になる。サイクルが自分で回り始めます。

売り切れは演出できても、捏造はできない

注意しておきたいのは、この打ち手の材料が実際に売り切れた商品だという点です。元ネタの言う「演出」は、売り切れた事実を目立つように告知することであって、売れていないものを売り切れと書くことではありません。

事実でない完売表示は、問い合わせてきた人にすぐ見抜かれます。一度見抜かれれば、以後の「売り切れました」はすべて疑われます。希少性の告知は、信じてもらえて初めて効くものです。

裏返せば、すでに売り切れを起こしている商品があるのに告知していない店は、手元の材料を使わずに眠らせていることになります。

【応用編】「満席」「完売」がある業種なら、そのまま使える

売り切れを告知して、問い合わせにつなげる手順

元ネタでは、物販以外にも応用例が挙がっています。共通しているのは、「もう無い」を告知したうえで、次の行動の受け皿を用意していることです。

アパレルショップ

人気商品の完売を告知し、再入荷リクエストを募集します。リクエストの数は、そのまま次の仕入れ量を決める材料にもなります。

美容サロン

人気施術の予約枠が満席になったことを告知し、キャンセル待ちリストを作ります。物販の「売り切れ」にあたるのが、サービス業では「満席」です。

セミナー・講座

満席情報を発信し、次回開催の先行案内への登録を促します。今回参加できなかった人を、次回の最初の申込者に変える形です。

始める前に確かめること

過去の投稿を見返して、売り切れや満席が起きたときに告知していたかを確認します。起きていたのに黙っていたなら、それが最初の1本です。告知するときは、「次回入荷未定」で終わらせず、問い合わせ先か登録先を必ず添えます。受け皿がないと、欲しくなった人の行き場がなくなります。

その投稿は、何が売れたかを伝えているか

売上が伸びないとき、在庫をもっと見せる、値引きを打つ、というのが自然な発想です。実際、それで動くこともあります。

ただ、この店が変えたのは在庫の量でも価格でもありませんでした。売れてしまった商品を、隠さずに告知した。それだけです。

自社のSNSを遡ったとき、「売り切れました」「満席になりました」という投稿は、何本見つかるでしょうか。

ADwith株式会社 代表 西川将吾
ADwith株式会社 代表 西川 将吾

自社に当てはめると、どこから手を付けるべきか。

まずは現状をご相談ください

広告運用・採用マーケティングの両面から、御社の状況に合わせた打ち手をご提案します。

無料で相談する