商品も価格も変えていない。広告の見出しを1行変えただけで売上が3.1倍になった防犯ブザーの話
広告の反応が悪いとき、多くの会社がまず疑うのは商品です。
価格が高いのではないか。機能が足りないのではないか。競合の方が優れているのではないか。
しかし、ある防犯ブザーの販売会社は、商品も価格もオファーも一切変えないまま、売上を3.1倍にしました。変えたのは、広告の見出しのたった1行だけです。
売上3.1倍。変えたのは、広告の1行目だけ

防犯ブザーを販売するある会社が、ネット広告の見出しを変更しました。
商品は同じ。価格も同じ。オファーも同じ。見出しの下に続く本文も変えていません。それでも売上は3.1倍になりました。
「最大○○デシベル」は、間違ってはいなかった
変更前の見出しは、こうでした。
最大○○デシベル!突発的な揺れで自動作動する防犯ブザー
この商品には明確な強みがありました。ボタンを押したり紐を引いたりしなくても、突発的な揺れを検知して自動で音が鳴る。襲われた瞬間に体がすくんで動けなくなっても作動する、という機能です。
説明として何も間違っていません。むしろ親切です。それでも、売れ行きは平凡なままでした。
買う気になっている4%にしか、届いていなかった
理由は、この見出しが「防犯ブザーを買おう」と既に決めている人にしか刺さらないからです。
市場には、その商品を今すぐ欲しいと考えている顕在層と、必要性を感じてはいるが購入まで意識が向いていない潜在層がいます。一般に顕在層は市場の約4%、潜在層が約96%とされています。
デシベル数や作動方式は、比較検討している人にとっては決め手になります。しかし残りの96%は、そもそも防犯ブザーの比較検討をしていません。彼らに機能を説明しても、読まれずに流れていきます。
見込み客が100人いても、4人にしか話しかけていなかった。これが「正しいのに売れない広告」の正体でした。
見出しを、機能の説明から「その日の出来事」に変えた

新しい見出しは、こうです。
あなたの大事な娘さんが、たった今、気持ち悪いおじさん(中年男性)に声をかけられようとしています
商品の話を一切していません。機能も、価格も、実績も出てこない。書かれているのは、読み手の身に起こりうる場面だけです。
防犯意識はあった。ただ、言葉になっていなかった
小学生の娘を持つ父親を思い浮かべてください。
「防犯ブザーを買おう」とは考えていません。しかし、娘が一人で登下校していることへの不安は、確かに存在しています。ニュースを見て「うちの子は大丈夫だろうか」と一瞬よぎる、あの感覚です。
その不安は、本人の中でまだ言葉になっていません。だから商品を探す行動にも結びついていない。
この見出しは、その言葉になっていない不安を、具体的な場面として目の前に置きました。読んだ瞬間に「今まさに起きているかもしれない出来事」として立ち上がる。ここで初めて、潜在層だった96%が動き出します。
その結果…
商品を何ひとつ変えないまま、売上は3.1倍に
変わったのは、話しかける相手の数です。4%に向けていた言葉を、96%にも届く言葉に変えた。それだけです。
【独自考察】なぜ「怖い話」を書いても嫌われないのか
感情に訴える広告と聞くと、不安を煽る手法だと受け取られがちです。実際、やり方を間違えれば嫌悪感しか残りません。この事例が成立した理由を、私は次のように考えています。
煽っているのではなく、代弁している
この見出しは、読み手が持っていない感情を新しく作り出したわけではありません。既に持っていたが、言葉にできていなかった不安を、代わりに言語化しただけです。
人は、自分の中にあるモヤモヤを他人にずばり言い当てられたとき、警戒ではなく信頼を抱きます。「この会社は分かっている」と感じる。煽りと代弁を分けるのは、その感情が読み手の中に元々あったかどうかです。無い感情を作りにいけば、それは煽りになります。
恐怖の直後に、解決策が置かれている
もうひとつは順番です。不安を提示したまま放置すれば、読み手には不快感だけが残ります。この広告が機能したのは、その不安に対する答え(自動作動する防犯ブザー)が、すぐ後ろに用意されていたからです。
感情で注意を引き、論理で納得させる。人は感情で欲しくなり、論理で正当化する、とよく言われます。この順番が逆になっている広告は、いくら機能が優れていても届きません。
安全・健康に関わる商材ほど、効きやすい
この手法が特に強く働くのは、「最悪の事態を避けたい」という感情が元々備わっている分野です。防犯、保険、医療、介護、住宅の安全性。
逆に、その感情が存在しない商材で無理に使えば、不自然な煽りとして見破られます。自社の商品がどちらなのかを見極めることが、使う前の判断になります。
【応用編】自社の広告を「場面の言葉」に書き換える

機能の説明を、読み手に起こりうる場面へ置き換えます。業種別に例を挙げます。
バリアフリーリフォーム
機能で書いた場合、こうなります。「段差のない設計で、転倒のリスクを軽減します」
これを場面で書くと、こうなります。
なぜあの時、バリアフリー工事をしなかったのか。玄関の段差で転倒した父は、それまで週1回の見守りで済んでいたのが、24時間の介護が必要な状態になってしまいました。
古い家の玄関は土間になっていて、石が敷き詰められ、高さもあります。足が弱った親がそこで転倒すれば、打ちどころによっては命に関わる。実際に転倒した親を発見するという経験をした人にとって、この一文は他人事ではありません。
生命保険
機能で書いた場合、「万一の際に、ご家族へまとまった保障をお届けします」。場面で書くと、こうなります。
「保険なんて必要ない」と言っていた夫が急逝しました。残されたのは住宅ローンと、途方に暮れる私たち母子でした。
セキュリティサービス
機能で書いた場合、「24時間365日、異常を検知して駆けつけます」。場面で書くと、こうなります。
「うちは田舎だから大丈夫」と思っていたのに、留守中に侵入された隣の家。壊された玄関ドアを見て、震えが止まりませんでした。
書き換えるときの手順
- その商品が防いでいる「最悪の事態」を1つ特定する。複数あるなら、最も避けたいものを選びます
- それが現実になった場面を、時間と登場人物を入れて具体的に描く。「転倒のリスク」ではなく「玄関の段差で転倒した父は」と書きます
- 描いた直後に、解決策を置く。ここが空くと、ただ不安にさせただけで終わります
変えるべきは商品ではなく、話しかける相手だったのかもしれない
広告の反応が悪いとき、商品に原因を求めるのは自然な発想です。
しかしこの事例が示しているのは、同じ商品でも、話しかける相手を変えれば結果が変わるということでした。機能の言葉は、既に買う気になっている4%にしか届きません。残りの96%に届くのは、彼らが既に抱えている不安を言い当てた言葉です。
自社の広告の1行目は、いま誰に向かって話しかけているでしょうか。