割引もポイント還元も使わなかった。売り場に1行足しただけで工具売り場の売上が121%になったホームセンターの話
売上を上げようとするとき、多くの場合は割引かポイント還元に向かいます。
価格を下げれば買いやすくなる。それは正しい。ただ、客が買うのをためらっている理由が価格ではない場合、割引はほとんど効きません。
あるホームセンターの工具売り場は、割引もポップも広告も使わず、売上を121%にしました。追加したのは、たった1行です。
追加した1行は、これだけだった

その1行はこうです。
現物合わせしてから購入できます
大規模な広告投資もPOP施策も行っていません。この一文を売り場に置いただけで、工具売り場の売上は121%になりました。
買うのを止めていたのは、価格ではなかった

「買ったけどサイズが合わなかった」という失敗
工具を買うとき、多くの人が経験する失敗があります。
六角レンチが4ミリなのか6ミリなのか。トルクレンチの先端ソケットが10ミリなのか12ミリなのか。日常的に工具を使うプロなら間違えませんが、日曜大工レベルの一般消費者には判断が難しい。
「このくらいかな」と思って買い、家で合わせてみたら違っていた。この経験が、次に買うときのブレーキになります。
割引では、この不安は消えない
ここで効くのは値引きではありません。「買って失敗したらどうしよう」という心理的ハードルが原因なので、安くなっても失敗する可能性は変わらないからです。
必要だったのは、失敗しないという保証でした。持っているボルトやネジに実際に合わせて確認してから買える。それだけで、買わない理由が消えます。
工具に不慣れな初心者ほど、この安心感は強く働きます。
その結果…
割引をせずに、売上は121%になった
金銭的なインセンティブを一切使っていません。取り除いたのは、価格ではなく不安でした。
【独自考察】この発想は、服の試着から来ている
この施策で最も興味深いのは、まったく新しい発明ではないという点です。
他の業界では、当たり前だったこと
洋服を買うとき、体型に合うかを確認してから買えるのは当たり前です。試着室がない服屋はありません。
しかし工具売り場では、それが当たり前ではありませんでした。他業界では常識になっている「試してから買える」を、まだそれがない業界に持ち込んだ。それだけで差別化が生まれています。
新しい打ち手を考えるとき、業界の外を見る価値がここにあります。自分の業界で誰もやっていないことが、隣の業界では常識かもしれません。
安心を売ると、価格競争から降りられる
もうひとつは、この施策が価格勝負を回避している点です。
割引で買ってもらった客は、次はより安い店に行きます。しかし「ここなら失敗せずに買える」という理由で来た客は、価格だけでは動きません。
提供したのが安さではなく安心だったから、他店が値下げしても影響を受けにくい。同じ売上増でも、後に残るものが違います。
【応用編】「試してから買える」を、自社に持ち込む

この考え方は業種を問わず応用できます。共通しているのは、購入前に結果を確認させるという点です。
自転車・バイクのカスタムパーツ
取り付けたときの見た目を、買う前に確認できるようにする。マフラーであれば、装着した状態の音を聞いてから選べるようにする。
飲食店
パスタ屋で3種類を一口ずつ試食してから、どれを注文するか決めてもらう。どれにするか迷って結局いつものメニューにする、という行動が変わります。
その他
- 塗料・壁材:小さなサンプルを自宅の壁に貼って、光の入り方を確認してから選べる
- 寝具:実際に横になって、朝まで過ごした状態を想定して選べる
- ソフトウェア:自社のデータを入れた状態で、導入後の画面を確認できる
自社に当てはめるときの問い
次の3つを順に考えると、自社版が見つかります。
- 客が買う前にいちばん不安に思っていることは何か
- その不安は、買う前に確認できるものか
- 確認させるために、店頭や商談で何を用意すればいいか
確認できるものであれば、あとは用意するだけです。
割引の前に、確かめること
売上が伸びないとき、値引きは最も分かりやすい打ち手です。しかし価格が理由で買っていないなら、下げても結果は変わりません。
この工具売り場が示していたのは、買わない理由を価格だと決めつけていたのは店側だったということでした。客が抱えていたのは、失敗したくないという不安でした。
自社の客が買うのをためらっているのは、本当に価格が理由でしょうか。