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本人に配るのをやめた。求人チラシの宛先を子ども世代に変えてスタッフが30人から150人になった話

人を募集するとき、チラシは働いてほしい本人に向けて書きます。当然のことで、疑う理由がありません。

あるポスティング会社は、そこを変えました。チラシの宛先を、働いてほしい本人ではなく、その子どもにしたのです。

結果として、スタッフは30人から150人になりました。

150人必要なのに、30人しか集まらなかった

求人チラシの宛先を子ども世代に変え、スタッフが30人から150人になった

この会社が業務を円滑に回すには、150名程度のスタッフが必要でした。ところが実際に確保できていたのは30名程度。慢性的な人員不足です。

ポスティングスタッフの中心となるのは、60歳以上のシルバー世代です。ここの採用に苦戦していました。

それまでの訴求は、間違っていなかった

従来の求人は、シルバー世代本人に直接アプローチするものでした。

お小遣い稼ぎができますよ
空いた時間を有効活用しませんか

おかしなところはありません。金銭面と時間の使い方という、求人の王道です。それでも成果は上がりませんでした。

シルバー世代がいちばん強く持っている思い

本人に小遣い稼ぎを訴える求人と、子ども世代に親の健康を訴える求人

お金より前に、迷惑をかけたくない

この会社が見逃していたのは、シルバー世代の行動原理でした。

彼らが最も強く持っている思いは、「子どもや孫に迷惑をかけたくない」というものです。経済的な負担をかけたくない。健康面で心配をかけたくない。介護が必要になって、生活の自由を奪いたくない。

この気持ちの前では、「お小遣いが稼げます」は少し軽く響きます。

仕事に求めているのは、報酬だけではない

さらに、シルバー世代が仕事に求めるものは金銭報酬だけではありません。元ネタでは4つの要素が挙げられています。

健康維持、認知症予防、社会的交流、経済的自立。特に歳を重ねるにつれて「ボケないこと」「健康であること」への意識は非常に高くなる、と説明されています。

住宅街の朝の道と、郵便受けにチラシを入れる手元

だから、宛先を変えた

ここから生まれたのが、本人ではなくその子ども世代(40〜50代)に向けて書くという逆転の発想です。子ども世代も親の健康や自立には強い関心を持っており、適切な情報があれば親に仕事を勧める可能性が高い、と考えました。

新しいチラシの見出しはこうです。

60歳以上のお父さん・お母さんがいる方へ。いつまでも元気でいてもらいたいなら、ポスティングの仕事を紹介してあげてください

訴求も入れ替えました。ポスティングは適度な運動になり健康維持につながる。地図を見て場所を確認する作業は頭を使い、認知症予防に効果的。同年代の仲間と一緒に活動することで新しい友人関係が生まれる。自分でお小遣いを稼ぐことで、経済的な自信と自立心が芽生える。

そのうえで「親の健康と自立が、結果的に子どもの負担を減らす」というメッセージも加え、親にも子にもメリットがある形にしています。

その結果…

このチラシをポスティングスタッフが配布する地域に戦略的に配ったところ、40〜50代の子世代から「うちの親にぴったりの仕事だと思います」という問い合わせが増えました。

最終的に、スタッフ数は30人から150人へと5倍になっています。

【独自考察】決める人と、働く人が違うことがある

求人にも「紹介者」がいる

この事例の構造は、求人というより紹介の設計に近いと考えています。

商品を売るとき、買う人と決める人が違う場面はよくあります。子ども向けの商品を決めるのは親であり、法人向けの商品を決めるのは現場ではなく決裁者です。だから広告は決める人に向けて書きます。

求人でも同じことが起きていました。働くのは親ですが、その仕事の存在を知らせ、背中を押すのは子どもです。本人だけを見ていると、この経路は見えません。

働く人と、その仕事を勧める人は、同じとは限らない

同じ仕事の、別の価値を書いただけ

もう1つ重要なのは、仕事の中身が何も変わっていないことです。時給も、配る枚数も、歩く距離も同じです。

変わったのは、その仕事が持つ価値のうち、どれを書いたかだけ。歩くことは「労働」でもあり「運動」でもあります。地図を見るのは「作業」でもあり「頭の体操」でもある。どちらも嘘ではなく、書かれていなかっただけです。

【応用編】家族に勧めてもらう3ステップ

家族に勧めてもらうための3つの手順

1. 家族(子世代)向けのメッセージを作る

まず宛先を変えます。募集の相手が高齢の方であれば、その子ども世代に向けた一文を用意します。呼びかけの言葉が変われば、読む人が変わります。

2. 健康・認知症予防・交流・自立の4要素を訴求に入れる

報酬だけを書かないことです。その仕事をすると体を動かすことになるのか。頭を使うのか。人と話す機会があるのか。自分の稼ぎになるのか。4つとも、すでに仕事の中にあるものです。

3. 家族が親に勧めやすい形にする

子ども世代が「これ、やってみたら」と渡せる形になっているかを確認します。手元に残る紙であること、親の負担が重すぎないと分かること、心配ではなく応援として渡せる書き方であること。

配る場所も同じ考え方で決められます。この会社はポスティングスタッフが配布する地域に戦略的に配りました。親と子が近くに住んでいる地域ほど、この経路は働きます。誰の目に触れるかまで含めて設計すると、同じ枚数でも結果が変わります。

他業種での例

介護施設なら「ご両親が活躍できる、生きがいのあるボランティア募集」と子世代に訴える。スーパーのレジ係なら「退職後も社会とつながれる、脳を活性化させる仕事です」と健康面を強調する。ホテルの客室清掃なら「体を動かし、チームで働く喜びを感じられる仕事」と交流面をアピールする。

いずれも、仕事の内容そのものは変えていません。

その求人は、誰の手に渡ると効くのか

応募が集まらないとき、時給や条件を見直すのが自然な流れです。それで動くこともあります。

ただこの会社が変えたのは、条件ではありませんでした。働いてほしい本人ではなく、その人に仕事を勧める立場の人に向けて書いた。それだけです。

自社の募集は、本人にしか届かない形になっていないでしょうか。

ADwith株式会社 代表 西川将吾
ADwith株式会社 代表 西川 将吾

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