高収入を売りにするのをやめた。「土日は必ず休める」とその理由を書いて採用単価が3万円になった営業職採用の話
営業職は、採用が最も難しい職種のひとつだと言われます。介護職や建設現場、運送業などと並ぶ位置づけです。
ある企業は、営業職を1人採用するのに毎回100〜200万円かかっていました。しかも採用できても早期離職が続き、結果として採用単価がさらに高騰する悪循環に陥っていました。
その会社が、採用単価を3万円まで下げています。
100〜200万円かかっていた採用単価が3万円になった

やったことは、訴求を入れ替えたことです。
「土日が確実に休める営業職」。この一点を採用戦略の中心に据えました。高収入でもインセンティブでもありません。
営業職が避けられる理由は、金額ではなかった

嫌われているのは労働環境のほう
営業職が不人気な最大の理由は、過酷な労働環境にあります。特に大きいのが「休日の少なさ」と「不規則な勤務形態」です。
多くの営業職では、顧客の都合に合わせた対応が求められます。マンション販売なら、見込み客が多く訪れる土日にこそ活動が必要です。既存顧客との関係構築のために、土日のゴルフや接待が発生することも珍しくありません。
こうした環境が「お金はいいけど、プライベートが犠牲になる」というイメージを定着させてきました。
金銭で釣ると、金銭で辞められる
それでも多くの企業は、営業職の募集で「インセンティブが高い」「成果次第で高収入」といった金銭的メリットを前面に出します。
ただ、金銭だけでは長続きしない現実があります。高い報酬に惹かれて入社しても、厳しいノルマや休日の少なさに耐えられず、早期離職するケースが後を絶ちません。採用単価が上がっていた原因は、募集の入口にありました。

経験者ほど、休みを重視する
この事例の洞察は、営業経験者が転職を考える際に最も重視するのは金銭ではなく、ワークライフバランスであるという点です。
すでに営業の厳しさを知っている人材ほど、次の職場では「安定した休日」を求める傾向が強くなります。だからこの会社は、採用ターゲットを「初めて営業に挑戦する未経験者」ではなく「すでに営業経験があり、結果を出せるが、より良い労働環境を求めている人材」に絞りました。
その結果…
採用単価は3万円にまで下がり、安定した人材確保が実現できるようになりました。
【独自考察】条件そのものより、その条件が続く理由が効いている
「休めます」だけなら、他社も書ける
この事例で最も重要なのは、なぜ土日休みを実現できているのかという「理由」まで書いたことだと考えています。
求人票に書かれた文面は、こういうものでした。
当社がマンション販売で土日休みを実現できる理由は、社員の長期的な成長とワークライフバランスを重視しているからです。短期的な売上より、社員が健全な状態で長く活躍できる環境づくりが、結果的にお客様への価値提供につながると考えています。そのため、平日に効率的な営業活動を行う仕組みを構築し、全社で協力して成果を出す文化を育てています

続くかどうかを、読み手は疑っている
「土日休み」とだけ書けば、それは条件の提示です。読み手は前職の経験から、繁忙期には結局出勤になるのではないかと疑います。
理由まで書かれていると、その疑いが薄れます。会社の価値観や経営哲学にまで踏み込んだ説明になっているため、「この会社なら長く働ける」「価値観が合いそう」と感じる応募者が増えたと報告されています。
条件は真似できますが、その条件を成立させている仕組みと考え方は簡単には真似できません。差がつくのは後者のほうです。
採用単価は、辞められた回数で決まる
もう一点押さえておきたいのは、この会社の採用単価が高かった原因が、募集費用だけではなかったことです。
採用できても早期離職が続けば、同じポジションをまた募集することになります。1回100万円の募集を年に2回繰り返せば、実質の単価は倍になります。募集の入口で合わない人を集めていると、費用は後ろで膨らみます。
長く働ける人が来る訴求に変えることは、募集費を下げる施策であると同時に、採り直しの回数を減らす施策でもあります。3万円という数字は、その両方が効いた結果だと考えられます。
【応用編】働き方で採用する3ステップ

1. 自社で提供できる「独自の働き方」を1つ決める
土日休み、直行直帰、残業なし、ノルマなし。他社が真似しにくく、自社では実際に守れているものを1つだけ選びます。
守れていないものを書くと、入社後に必ず崩れます。早期離職が増えれば、採用単価は元に戻ります。
2. その働き方が可能な「理由と背景」を言語化する
なぜそれができるのかを説明します。仕組みの話でも、経営の考え方の話でも構いません。ここが抜けると、ただの条件提示に戻ります。
3. 経験者に向けた言葉で発信する
未経験者に向けて書くと、どうしても「稼げます」「未経験歓迎」に寄ります。すでにその職種を経験した人に向けて書くと、訴求は自然に労働環境の話になります。
他業種での例
不動産営業なら「インサイドセールスを強化し、外回りは平日のみ。土日は家族との時間を」。保険営業なら「デジタルマーケティングで見込み客を獲得、土日の飛び込み営業はありません」。卸売業なら「取引先との約束として、緊急以外の土日連絡は禁止」。
いずれも、給与の話をしていません。
その求人は、何で人を惹きつけているか
採用が難しい職種ほど、報酬を上げて釣るのが自然な発想です。実際、応募は増えます。
ただ、この会社が変えたのは報酬ではありませんでした。働き方を1つ約束して、それが可能な理由まで書いた。それだけです。
自社の求人が集めているのは、お金で動く人でしょうか。それとも、長く働ける環境を探している人でしょうか。