地元で探すのをやめた。大阪や神戸に向けて求人を出し、スタッフ5人体制・売上400万円になった和歌山の鍼灸院の話
求人を出しても、応募が来ない。地方の小さな事業所で、よく聞く悩みです。理由もはっきりしています。そもそも地元に、その仕事ができる人が少ないのです。
和歌山県の片田舎にある鍼灸院も、同じ壁の前にいました。専門職である鍼灸師は、地元で探す限り母数が増えません。
この院は、探す場所を変えました。地元ではなく、大阪や神戸、名古屋に向けて求人を出したのです。
人が集まらなかった片田舎の鍼灸院が、スタッフ5人体制・売上400万円に

この鍼灸院は深刻な人材不足に直面していました。地元での求人は母数が少なく、鍼灸師の確保は困難を極めていました。
そこで発想を転換し、県外からの人材確保に成功します。いまはスタッフ5人体制で、売上400万円という成果を上げています。
鍵になったのは、田舎であることを、隠すのではなく前に出したことです。
欠点だと思っていた「田舎」が、応募の理由になった

都会に疲れた人は、一定数いる
元ネタはこの手法の核心を「逆転の発想」と呼んでいます。
競争社会や都市の喧騒に疲れ、自然豊かな環境でゆったりと働きたいと考える人は、一定数存在します。大都市圏の求職者にとって、田舎での勤務は新しいライフスタイルの選択肢になり得ます。
地元で探すと「田舎だから人がいない」になります。都会に向けて出すと「田舎だから行きたい」になります。同じ条件が、誰に見せるかで欠点にも魅力にもなるということです。
宛先を変えて、言葉も変えた
この院はまず、求人広告のターゲットを大都市圏(大阪、神戸、名古屋など)に設定しました。そのうえで、次の訴求を行います。
和歌山の自然豊かな環境で、ゆったりと鍼灸師・セラピストとしての人生を歩んでみませんか
この一文にあるのは、給与や待遇ではありません。そこでどう暮らし、どう働くかです。
行きたい気持ちを、止めるものを外した
ただ、「行ってみたい」と思っても、実際に引っ越すのは簡単ではありません。そこでこの院は、都会からの移住者が抱える不安や障壁を、会社が完全にサポートする体制を整えました。
具体的には、引っ越し費用の全額負担。1棟まるごと借り上げた寮の完備。家電製品の準備。移住に関するハードルを、徹底的に取り除いています。

その結果…
地元では見つからなかった人材を、県外から確保できました。鍼灸院はスタッフ5人体制になり、売上400万円を上げています。
【独自考察】勤務地は動かせないが、募集する場所は動かせる
「母数が少ない」は、探している範囲の話だった
地方の採用で「このあたりには人がいない」と言うとき、その範囲はたいてい通勤圏です。でも、引っ越してきてもらえるなら、通勤圏の外にいる人も候補になります。
勤務地は変えられません。ただ、求人をどこに向けて出すかは、自分で決められます。この院がやったのは、探す範囲を通勤圏から大都市圏に広げたことです。
求人広告の多くは、配信する地域を指定できます。地元で反応が取れないとき、同じ原稿を地元に出し続けるのではなく、届ける地域そのものを見直す余地があります。

魅力の訴求と、障壁の除去はセットで効く
この事例を「田舎の良さを書けば人が来る」と読むと、半分しか見ていないことになります。
訴求文は「行きたい」と思わせる役割です。引っ越し費用、寮、家電は「行ける」と思わせる役割です。どちらか一方だけでは、応募には届きません。魅力だけを書いた求人は「いいな」で終わります。支援だけを並べた求人は、そもそも読まれません。
この院は、移住という大きな決断の前にある障壁を、会社側で先に引き受けました。応募者が考えるべきことを減らしたのです。
来てもらってからのほうが、長い
元ネタは注意点も挙げています。移住後のフォロー体制が重要であり、地域への馴染みやすさをサポートする仕組みも必要だということ。そして、都会での生活経験がある優秀な人材が来るのだから、それに見合った待遇や成長機会の提供も欠かせないということです。
移住してきた人は、仕事を辞めるときに住まいも人間関係も同時に失います。だからこそ、入社前の支援と同じだけ、入社後に孤立させない仕組みが問われます。求人の成功は、来てもらった時点ではなく、定着した時点で決まると考えています。
【応用編】「田舎」を訴求に変える業種別の書き方

元ネタが示す手順は3つです。大都市圏の求職者向けに求人を出す(ターゲット設定)。引っ越し費用・住居・生活基盤を完全にサポートする(障壁除去)。田舎ならではの豊かさと働きがいを前面に打ち出す(魅力訴求)。
このうち、業種によって一番変わるのは3つ目の言葉です。元ネタの応用例を、業種ごとに見ていきます。
害獣駆除業者なら、冒険心に訴える
「サバイバル好きな方必見!自然の中で野生動物と向き合う、まさにあなたの天職です」。都会では体験できない仕事の中身そのものを、魅力として打ち出します。
農業関連事業なら、豊かさの定義を問い直す
「土と向き合い、本当の豊かさを見つけませんか」。対象は、都会の物質的な豊かさに疑問を持つ人です。給与の額ではなく、何を豊かさと考えるかで人を集めます。
観光業なら、人とのつながりを差し出す
「お客様に本物の癒しを提供する、心豊かな仕事を始めませんか」。人との深いつながりを求める人に向けた言葉です。
3つとも、田舎であることを言い訳にしていません。むしろ、田舎でなければ成り立たない仕事として書いています。そして、どの業種でも、言葉の裏には移住の障壁を取り除く支援が必要になる点は変わりません。
その求人は、誰に向けて出しているか
応募が来ないとき、給与を上げるか、掲載媒体を増やすのが自然な発想です。どちらも、地元という同じ範囲の中での打ち手です。
ただ、この鍼灸院が変えたのは、求人を届ける相手でした。田舎であることを隠さずに、都会に疲れた人に向けて書き、引っ越しの障壁を先に外した。それだけです。
自社が欠点だと思っている条件は、別の場所にいる誰かにとっては、応募する理由になっていないでしょうか。