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求人広告費はかけていない。カスハラの不安に答える投稿を続け、毎月20代が平均8人応募してくる社会福祉法人の話

専門学校を卒業したばかりの若いスタッフが、現場に入ってまもなく辞めていく。介護の採用に関わっている人なら、一度は見たことのある光景かもしれません。

理由は仕事のきつさだけではありません。入居者からのセクハラをはじめとするカスハラ(カスタマーハラスメント)も、若手が離れる大きな原因になっています。

ある社会福祉法人は、この不安に正面から答える発信を続けました。求人広告費はかけていません。それでも今は、毎月平均8人の20代が応募してきます。

半年程度で、毎月平均8人の20代が応募してくるようになった

インスタグラムでの発信に切り替えて、半年程度で毎月平均8人の20代が応募してくるようになった

この法人は、採用に苦戦していました。特に難しかったのが若手の獲得です。採用できても、カスハラなどの問題で早期離職が続いていました。

そこで採用の軸を、インスタグラムを活用した発信に切り替えます。わずか半年程度で、毎月平均8人の20代が応募してくる状況に好転しました。求人広告費をかけずに、安定した採用ルートを持てたことになります。

20代がいる場所で、20代が怖がっていることに答えた

求人情報を載せるだけの発信と、働く側の不安に答える発信

相手・言葉・場所の3つが揃っているか

この事例の土台にあるのが、マーケティングの権威ダン・ケネディが示した「3つのM」です。Market(ターゲット)、Message(メッセージ)、Media(メディア)。この3つが一致したときに、最大の効果が出るという考え方です。

たとえば20代を採りたいとき、20代に響くメッセージを用意しても、彼らがほとんど見ないメディア、たとえば日経新聞の求人広告に載せたのでは効果は限られます。逆に、20代が日常的に使うメディアを選べば、届く範囲は大きく広がります。

この法人が注目したのは、「若い世代が最も利用するメディア=インスタグラム」という点でした。ここまでは、多くの会社が思いつくところです。

求人情報ではなく、業界の不安を題材にした

違ったのは、何を載せたかです。この法人は、単なる求人情報の発信にしませんでした。介護業界に特有の課題に焦点を当てた投稿を、意図して組み立てています。

若いスタッフが不適切な言動にさらされ、耐えられずに辞めてしまう。そういうケースが業界に少なくないことは、応募する側も知っているはずです。この不安が残ったままでは、給与や休日を書き並べても、応募には踏み切りにくいと考えられます。

投稿の核は「介護する側の尊厳も守られている」

そこで投稿の核に置いたのが、「介護する側の尊厳も守られている」ことを視覚的に伝えることでした。スタッフと入居者が良い関係を築いている様子や、互いに尊重し合う信頼関係がわかる日常の一コマを、意図的に投稿しています。

投稿の例として挙げられているのは、次の4つです。

スタッフと入居者が一緒に笑顔で活動している様子。入居者からスタッフへの感謝の言葉や手紙。スタッフ同士の良好な人間関係や支え合いの文化。そして、介護の大変さだけでなく、やりがいや喜びが感じられる瞬間。

介護施設の共用スペースと、手紙を手に取る手元

その結果…

こうした投稿を続けることで、「この施設は入居者とスタッフの関係が良好で、カスハラのリスクが低い」という印象が伝わりました。応募者は施設の雰囲気や働く環境をイメージしやすくなり、「ここなら自分も働けるかもしれない」という安心感を持って応募してくるようになります。半年程度で、20代の応募は毎月平均8人になりました。

【独自考察】求人票に書けないことを、日々の投稿が証明している

「カスハラはありません」とは、誰も書けない

この事例で最も大事なのは、不安を言葉で打ち消そうとしていないことだと考えています。

求人票に「カスハラはありません」「職員を守ります」と書くことはできます。ただ、応募する側にはそれを確かめる手段がありません。どの施設も同じことを書けるので、読む側は割り引いて受け取ります。

この法人は、それを宣言ではなく日常の場面で見せました。入居者からスタッフへの感謝の手紙、一緒に笑っている様子。主張ではなく、証拠を出しているのです。

見せたいのは会社の良さではなく、この仕事の不安要素が解消されている証拠

会社の良さと、不安が消えている証拠は別物

採用の発信というと、会社の良いところを並べがちです。設備がきれい、研修が手厚い、福利厚生が充実している。どれも嘘ではありません。

ただ、応募をためらっている人が知りたいのは、良いところより「自分が怖がっていることが、ここでは起きないか」です。この事例のポイントもそこにあります。見せたいのは会社の良さだけでなく、この仕事の不安要素が解消されている証拠です。

応募前に雰囲気が伝わっていると、入ってからの落差が小さい

もうひとつ、この法人の課題は応募が少ないことだけではありませんでした。採用しても早期離職が続いていたことです。

元の事例は離職率の変化までは報告していません。ただ、応募の段階で職場の人間関係や入居者との距離感を見てから来る人は、入ってから「思っていたのと違う」と感じる余地が小さくなります。応募者を増やす発信が、そのまま入社後のミスマッチを減らす方向にも働くと考えられます。

広告費をかけない発信は、続けた分だけ残る

弊社はMeta広告の運用を支援していますが、この事例はインスタグラムの投稿そのものを採用の資産にしている点が参考になると考えています。

求人広告は、出稿を止めれば応募も止まります。一方でアカウントに積み上がった日常の投稿は、後から見に来た人にもそのまま届きます。求人広告費をかけずに安定した採用ルートになったのは、単発の告知ではなく、継続的な発信だったからでしょう。広告を使う場合も、この積み上がった投稿があるかどうかで、広告を見た人がアカウントを訪れたときの印象は変わります。

【応用編】その業界の「不安」は何か。3業種で考える

業界特有の不安を解消する投稿を続けるための3つの手順

介護のカスハラにあたる不安は、業界ごとに形が違います。元の事例では、次の3業種の投稿例が挙げられています。応募する側が抱きそうな不安は、弊社の推測として添えました。

自動車整備工場

投稿するのは、「単純作業だけでなく、特殊なカスタマイズ依頼にも対応している技術力の高さ」を示す場面です。

応募する側には、同じ作業の繰り返しで腕が上がらないのではないか、という不安があると考えられます。実際に手がけている仕事の幅を見せることが、その答えになります。

美容室

投稿するのは、「新人でも個性を活かした提案ができる自由な社風」を伝える、先輩スタイリストとの対話シーンです。

新人のうちは言われたことだけをやらされるのではないか。そうした不安に対して、先輩と新人が話している場面そのものが証拠になります。

IT企業

投稿するのは、「ワークライフバランスを保ちながら成長できる環境」を示す日常風景です。

成長できる会社ほど忙しく、私生活は削られるのではないか。その思い込みに対して、日々の働き方を見せます。

どの業種でも、順番は同じ

まず、採用したい層が使っているメディアを特定する。次に、その業界に特有の不安や課題を言葉にする。最後に、その不安が解消されていることの証拠を、日常的に投稿する。3つ目を「日常的に」続けられるかどうかが、この事例と一度きりの告知との差です。

その投稿は、応募者のどの不安に答えているか

若手が集まらないとき、給与や待遇を上げるか、求人広告を増やすのが自然な発想です。どちらも一定の効果はあります。

ただ、この法人が変えたのは待遇でも広告費でもありませんでした。若手が怖がっていることを正面から取り上げ、それが起きていない日常を見せ続けた。それだけです。

自社の採用アカウントに並んでいる投稿は、会社の良さを語っているでしょうか。それとも、応募をためらっている人の不安に答えているでしょうか。

ADwith株式会社 代表 西川将吾
ADwith株式会社 代表 西川 将吾

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