「元気な人歓迎」で50万円かけて2名。「怒鳴られるのが苦手な人、大歓迎」で8万円で5名採用できた居酒屋の求人広告
応募が来ないとき、最初に検討するのは時給です。
周辺の相場を調べ、50円上げる。それでも反応がなければ、掲載プランを上位に変える。この順番で予算が膨らんでいきます。
ある居酒屋は、求人広告に50万円を投じてアルバイト2名しか採用できませんでした。その後、8万円の広告で5名を採用しています。上げたのは、時給ではありませんでした。
50万円で2名、8万円で5名

この居酒屋は、採用コストの高さに悩んでいました。時給などの条件を上げても反応は今ひとつ。
そこで、条件を競うのをやめて、まったく別のアプローチに切り替えます。タウンワークに8万円で掲載した広告で、5名の採用に成功しました。
採用単価は、6分の1以下になった
50万円で2名なら1名あたり25万円。8万円で5名なら1名あたり1万6千円です。同じ店の、同じ仕事の募集でこの差が出ました。
「その仕事は好きだけど、この部分が嫌」という層

どんな業界にも、その仕事をしたい人はいる
前提として押さえておきたいことがあります。どんな業種・業界にも、その仕事自体に魅力を感じている人が必ず一定数いるということです。
居酒屋で働きたい人。パチンコ店で働きたい人。介護の仕事がしたい人。世間のイメージで避けられがちな職種であっても、その仕事を選びたいと考えている人は存在します。
避けている理由は、仕事内容ではない
ではなぜ応募してこないのか。彼らが躊躇しているのは、仕事の内容ではなく職場の文化や人間関係だからです。
「居酒屋の仕事は好きだ。でも、体育会系のノリが苦手だ」「怒鳴られるのが怖い」。仕事は好きなのに、この部分が嫌だから遠慮している。この層が、実は大きな採用余地になっています。
一方、多くの求人広告は「元気な人歓迎!」「やる気のある方!」と呼びかけます。抽象的で、誰の心にも残りません。
実際に載せた文言
この居酒屋が求人広告に書いたのは、次の内容でした。
怒鳴られるのが苦手な人、体育会系のノリが苦手な人、飲み会の誘いが苦手な人… そんな方は当店大歓迎です。なぜなら、店長自身がこの3つが大の苦手だからです。当店はこの3つを完全禁止した職場です。
「なぜなら」の一文が、証拠になっている
この文章が強いのは、「大歓迎です」と言うだけで終わっていない点です。
店長自身が同じ悩みを持っている、という証明が添えられています。これ以上の説得力はありません。宣伝文句ではなく、本当にそういう職場なのだと信じられる。
読んだ側は「この職場なら自分も安心して働けるかも」と感じ、応募のハードルが一気に下がります。
その結果…
8万円の掲載で、5名が応募して採用に至った
時給を上げたわけではありません。呼びかける相手を、条件で選ぶ人から不安で足を止めていた人に変えただけです。
【独自考察】「歓迎」と書くことと、「禁止」と書くことの差
この事例で最も効いているのは、禁止と書いたことだと考えています。
歓迎は願望、禁止は制度
「アットホームな職場です」「風通しの良い職場です」は、書いた側の願望でしかありません。読む側は、それが実現されている保証をどこにも見つけられません。
一方「この3つを完全禁止した職場です」は制度の話です。やるかやらないかが決まっている状態を指しているので、検証の対象になります。入ってみて違ったら、約束が破られたことになる。だから書く側にも覚悟が要ります。
その覚悟が伝わるから、信じられるのだと思います。
弱みを認めた方が、人が集まることがある
もうひとつは、店長が「自分もこの3つが苦手だ」と認めている点です。
採用の場面で経営者が自分の弱さを書くのは、普通は避けます。しかしこの広告では、それが最大の証拠になりました。同じ弱さを持つ人にとって、これほど安心できる材料はありません。
強さを並べる求人と、弱さを共有する求人。集まる人は違いますが、定着するのは後者かもしれません。
【応用編】躊躇理由を逆手に取る4ステップ

- ターゲットの躊躇理由を特定する。自社の業界・職場で働きたいのに、何を理由に避けている人が多いかを考えます。「怒鳴られる文化」「体育会系のノリ」「残業の強要」「飲み会の強制参加」など、業界特有のネガティブなイメージを洗い出します
- その不安を取り除く宣言をする。「○○が苦手な方、大歓迎です」という形で、躊躇理由を逆手に取って呼びかけます。抽象的な「元気な人」ではなく、具体的な悩みに言及します
- 信頼できる証拠を添える。「なぜなら、店長自身が同じ悩みを持っているからです」「だから当店ではこの3つを完全禁止しています」と、理由を明示します
- 媒体はターゲットに合わせて選ぶ。この事例ではタウンワークを使いましたが、媒体そのものより文言の設計が鍵です。どの媒体でも応用できます
他業種での例
- 介護施設:「体力に自信がない方歓迎。当施設は最新機器で負担を9割削減しています」
- コールセンター:「クレーム対応が怖い方も安心。専門チームが即サポートする体制完備」
- IT企業:「残業したくない人歓迎。社長自身が定時退社主義で全員18時完全退社を徹底」
いずれも「歓迎」の後ろに、必ず具体的な制度が置かれています。
募集していたのは、条件で選ぶ人だったのかもしれない
時給を上げれば、時給で選ぶ人が集まります。条件を競っている限り、より良い条件を出せる店に流れていきます。
この居酒屋が集めたのは、条件ではなく職場の空気で店を選ぶ人でした。そういう人は、他店が時給を上げても動きません。
自社の求人は、どういう基準で選ぶ人に向けて書かれているでしょうか。